2011/03/28

Huttner祭り

ちょっと古いけど前から気になっていたMax PlanckのHuttner labの論文を読んだ。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Mar 2;101(9):3196-201. Epub 2004 Feb 12.
Neurons arise in the basal neuroepithelium of the early mammalian telencephalon: a major site of neurogenesis.
Haubensak W et al.

Tis21-GFPノックインマウスを最初に報告している論文。これまで年間平均25回くらい引用されておりかなり人気が高い。ただ僕の結論としては、
1)定量性が低すぎる
2)娘細胞のcharacterizationが甘すぎる
ため、分裂しているTis21-GFP細胞の娘細胞がどんな細胞になるのかはこのデータからは結論付け難い。残念ながらこのマウスで「GFP陽性細胞の分裂ではneuronが生まれる」とか「GFP陰性細胞の分裂では2つのneuroepithelial cellが生まれる」とか言われてもとても信じられない。関係のありそうな方は、生データをご覧頂くことをお勧めします。

続いて同じHuttner labからの仕事。

EMBO J. 2004 Jun 2;23(11):2314-24. Epub 2004 May 13.
Asymmetric distribution of the apical plasma membrane during neurogenic divisions of mammalian neuroepithelial cells.
Kosodo Y et al.

素晴らしい観察眼に基づいた論文。「分裂面が脳室面に対しverticalかそうでないか」よりも「apical membraneのsplitがequalかそうでないか」の方が、「neuroepithelial cell→2つのneuroepithelial cellかそうでないか」を判定するいい基準になるのではないかという斬新なアイデアを提唱している。ただしその重要な根拠に先のTis21-GFPマウスを使っているので個人的には慎重にならざるを得ない。ただ、「Tis21-GFP陽性細胞はapical membraneをunequalにsplitする傾向があり、陰性細胞はequalの傾向がある」ことは確からしい。

さらに続いて同じHuttner labからの仕事。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Jul 5;103(27):10438-43. Epub 2006 Jun 23.
Aspm specifically maintains symmetric proliferative divisions of neuroepithelial cells.
Fish JL et al.

正直、こんな酷い論文は久しぶり。AspmのRNAiをしているけど、control RNAiしていないし、もちろんresqueもしてないし、そもそもAspmが落ちているか定量的に調べていない。

そしてこの論文の怪しい結果に基づいて遺伝子改変マウスまで作ってしまった論文がこの論文。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 21;107(38):16595-600. Epub 2010 Sep 7.
Mutations in mouse Aspm (abnormal spindle-like microcephaly associated) cause not only microcephaly but also major defects in the germline.
Pulvers JN et al.

そして結果、Aspmのmutationをいれてもneurogenesisには影響がなかったという。。。これは正直サムイですよ。誰か途中で止めたれよー。。。。
ただ、この研究ではマウスAspmの代わりに構造の異なる(霊長類で正の選択を受けてきたと思われている)ヒト型Aspmを導入していて、おそらくヒトの脳のようになることを狙ったと思われるが、結果、脳の大きさはマウスAspmを発現させた場合と変わらなかった。。。。ということでwで残念。。。しかしこの研究の背景にあると想像される、「ヒトの疾患をマウスで再現したい、あわよくばマウスの脳をヒトのようにしわしわにしたい!」という熱い想いには共感できる。

ということで僕の結論としては、「Aspmはマウスのneurogenesisには影響していない可能性が高い」ということです。上のPulvaers et al., 2010では脳の大きさ自体は確かに15%くらい小さくなっていますが、Fig.1Eをみるとmutantでは全体的に細胞密度が上がっているように見えるのでその影響が大きいのでは、と思います。もっとも、著者らが言っている通り、neurogenesis以前のneuroepithelial cellの分裂に影響している可能性はあるけど、例えあったとしても結局脳の大きさが15%減少する程度なので影響は小さいと思う。

以上、Huttner labの仕事、4連発でした。

2011/03/27

ヒト大脳皮質の拡張可能性

系統発生的に、哺乳類大脳皮質はxy方向に拡張してきた一方、z方向への拡張はほとんどない。従って大脳皮質はどちらかというとxy方向への拡張、すなわちradial columnを増やす方向への拡張には一定の可塑性を保持している可能性が高い。ただしクロマニョン人の方が現代人よりも脳容量が大きかったという話もあり、これが正しいとすると現在のヒトの大脳皮質はxy方向に拡張可能な上限に達しているという可能性もある。

2011/03/04

サイエンスの議論

今日は自分のプログレスレポートだった。進化の話なので厳密な結論は出ないのだが、そんな内容でもラボのみんなから色々な意見をもらえて良かった。特にレポート終了後に2時間近くにわたって大局的な議論をK先生らと話し込めたことは面白かった。普段は目の前の実験や雑務に追われていることが多くて、広い視点で現状をとらえ直すことができない傾向にあるけど、やっぱりサイエンスの面白さの一つは想像を膨らませて夢や未来を議論し合うことにあると思う。特に若いうちはまだまだ未熟で当然なのだから、自分棚上げでガンガン言い合うのが面白いw