2011/09/20

「Wild type」の多様性

僕ら研究者は、ゲノム上の配列異常がある個体に対し、それが正常な個体をwild typeと呼んでいる。つまり特定の個体がwild typeかどうかを判断するには、議論の的となる配列が決まっていることが必要。注目する配列があって初めてwild typeが決められる。

最近ヒトを含む動物において、同一種の中でもゲノム上の配列に著しい多様性があることが明らかになってきた。従ってゲノム上の特定の配列について、自分が、あるいは目の前にいるヒトが、いつも使っているcell lineが、wild typeであることを主張するためには、その多様性を考慮しても正常、すなわち大多数と同じであるということを明確に示す必要がある。

自分の実験をwild typeをベースにして行うことは重要である。前述の通り、wild typeをベースにしているということは、その結果からその種の代表的なゲノム配列について議論できることを意味しているからである。

しかしここでひとつ注意が必要だと思う。たとえあるゲノム配列についてwild typeである個体間でも、他のゲノム配列については異なっているこということが十分にあり得る。実際我々の多くはある特定のゲノム配列についてはwild typeであるが、互いに顔も背丈もかなり多様であるのはそのためだろう。従って、あるゲノム配列についてwild typeであると判断されたヒトなり細胞なりで得られた結果からは、その種で代表的なゲノム配列について、その特定のヒトなり細胞なりにおける機能などを結論ができるが、ヒト一般、細胞一般における機能などについては結論できない。ヒト一般、細胞一般に関する結論を得るためには、注目しているゲノム配列がwild typeであるということを示し、さらにそれ以外のゲノム配列についてできるだけ多様なヒトなり細胞なりでも同じ結果が得られることを示す必要があると思う。

最近の研究から個体間の多様性が明らかになりつつあることを背景として、今後生物の研究においては、ある結果についてより一般性の高い結論を得るためには、できるだけ多様なwild typeで同様の結果が得られることを示すことが重要になっていくだろうと思っている。