2014/05/31

無趣味のすすめ

タイトルをみて意外性があったので読んでみた本(出版社の狙い通りの鴨?)。


無趣味のすすめ 村上龍 (幻冬舎文庫)


この著者はカンブリア宮殿というTV番組でインタビューアーをしていて、私もいつも楽しませてもらっていた。この本には世間で取りざたされている色々な風潮や流行り言葉、その背景にある凝り固まった考え方などに対する著者の意見が述べられていて、TV番組と同様に楽しくて一気に読み終えてしまった(ちょっと驚くほど文字が大きく、字数が少ないことも関係している)。
特に「効率化」と「ゆとり」、「仕事」と「生活」といった、対立関係で語られることが多い事柄が、ちょっと意識を変えるだけで融合して自然な「形」になりうることを指摘しているところが面白かった。

普通のとは違った、ちょっとひねくれた意見を聞くのが好きな人に、オススメです。

2014/05/19

研究資金への「自由裁量分」の導入

最近ラボの先輩方と話していて思ったこと。

 研究に必要な資金(科研費やその他民間財団からの研究助成など)というのは、「基本的に」事前に研究者がその資金を得るために申請したテーマに沿った実験をするために配られる資金である。 「原則的に」申請したのと別のテーマに関する実験のためにその資金を使うことはできない。 しかし申請したテーマに沿った実験を行っているうちに、誰も想像していなかったような興味深い結果が得られることがある。 そのような結果は時に、申請したテーマとは別の、より重要なテーマの存在を暗示することがある。 その意図せず見つかった重要なテーマに沿った実験を開始するには、「原則的に」新たな研究資金をそのテーマで申請し、受理され、資金が交付されるまで待つ必要がある。

そのような正当な手続きを踏む場合、最短でも1年程度はその重要なテーマを「眠らせる」ことになる。 このような「眠らせ」ざるを得ない時間があることは大変非効率であり、もったいない。 

そこで、もし「すぐに研究を開始すべきテーマというものは一定の割合で、別のテーマの結果から暗示されることがある」という事に一般性があるのであれば、主要な研究資金の15-20%程度を、予め「自由裁量分」として認めてはどうかと思う。予期せず別のテーマの実験から面白いテーマを思いついた研究者は、今手元にある研究資金のうちの自由裁量分を使って研究を開始することができる。もちろんそのような「出会い」が無かった場合は、予定通りその自由裁量分は元々のテーマに沿った実験に使えば良い。

 STAP細胞問題を契機に、今後研究業界において暗黙の了解のようになっていた「グレーゾーン」に、今後次々とメスを入れていくことになると思う。その対象のひとつとして「研究資金とその使用実績の透明化の強化」が挙がることは時間の問題だろう。その際、このような「自由裁量分」を導入することで、現場との齟齬を減らすことができるのではないだろうか。

2014/05/03

科学者という仕事

ちょっと珍しい、「科学者」という職業自体を解説した本。


科学者という仕事―独創性はどのように生まれるか 酒井 邦嘉 (中公新書)


「科学者」という職業の定義はやや曖昧ではあるが、本書で解説しているのはおおよそ大学や(最近何かと話題の)理化学研究所などの公的な機関で主体的に研究活動をすることを生業としている人のこと、だと理解しておくといいだろう。科学とは何か、本来科学者がもっているべき哲学とはどんなものか、優れた研究をするためにはどんなセンスが必要なのか、それを得るためにはどんなプロセスを経てどんな訓練を積んだらいいのか、といったトピックについて、著者の考えに加えアインシュタインやチョムスキーをはじめとする過去の偉人達の言葉をふんだんに引用して解説している。ただこれはおそらく著者自身の性格がにじみ出ているのではないかと想像するが、全体的に大変「真面目」な見解になっている。現実にはこれほど厳格にストイックに科学者をしている人は少数派である気がする。私を含め多くの人はもう少しユルい感じでやっている気がするので、たとえ本書を読んで科学者の世界の敷居が高いように感じでも、実際は、きっと大丈夫なので心配する必要は無いと思う。いずれにしても、いわゆる「科学者」が、一体どんなことを考えてどんな動機でどんなことをしているのか、ということに興味がある人や、これから科学者になることを目指している高校生や大学生には、大変参考になる本だと思う。