2011/09/20

「Wild type」の多様性

僕ら研究者は、ゲノム上の配列異常がある個体に対し、それが正常な個体をwild typeと呼んでいる。つまり特定の個体がwild typeかどうかを判断するには、議論の的となる配列が決まっていることが必要。注目する配列があって初めてwild typeが決められる。

最近ヒトを含む動物において、同一種の中でもゲノム上の配列に著しい多様性があることが明らかになってきた。従ってゲノム上の特定の配列について、自分が、あるいは目の前にいるヒトが、いつも使っているcell lineが、wild typeであることを主張するためには、その多様性を考慮しても正常、すなわち大多数と同じであるということを明確に示す必要がある。

自分の実験をwild typeをベースにして行うことは重要である。前述の通り、wild typeをベースにしているということは、その結果からその種の代表的なゲノム配列について議論できることを意味しているからである。

しかしここでひとつ注意が必要だと思う。たとえあるゲノム配列についてwild typeである個体間でも、他のゲノム配列については異なっているこということが十分にあり得る。実際我々の多くはある特定のゲノム配列についてはwild typeであるが、互いに顔も背丈もかなり多様であるのはそのためだろう。従って、あるゲノム配列についてwild typeであると判断されたヒトなり細胞なりで得られた結果からは、その種で代表的なゲノム配列について、その特定のヒトなり細胞なりにおける機能などを結論ができるが、ヒト一般、細胞一般における機能などについては結論できない。ヒト一般、細胞一般に関する結論を得るためには、注目しているゲノム配列がwild typeであるということを示し、さらにそれ以外のゲノム配列についてできるだけ多様なヒトなり細胞なりでも同じ結果が得られることを示す必要があると思う。

最近の研究から個体間の多様性が明らかになりつつあることを背景として、今後生物の研究においては、ある結果についてより一般性の高い結論を得るためには、できるだけ多様なwild typeで同様の結果が得られることを示すことが重要になっていくだろうと思っている。

2011/08/04

サイエンスカフェ

「WEcafe」というサイエンスカフェに初めて参加し、一般の方々に最近の研究成果に関するお話をしてきました。

Link1: WEcafe 公式ページ
Link2: 参加された方のブログ。写真など
Link3: Togetter - 「WEcafe vol.18 「神経細胞の歩き方 in 脳」まとめ」

参加者は10名程度でした。一般の方々にこう行った形で研究の話をするのは初めての経験でしたが、まさにカフェでみんなで雑談をするような雰囲気で、楽しかったです。

2011/06/27

(Newton)


Newton 2011年8月号
(転載にあたりニュートンプレス社より許可を得ている)
低解像度であるため文字の判別は困難

(週刊科学新聞)


週刊科学新聞 2011年5月13日付け
(転載にあたり科学新聞社より許可を得ている)

(日刊工業新聞)


日刊工業新聞 2011年4月26日付け
(著作権は日刊工業新聞に帰属する。転載にあたり著作権の許諾を得ている)

2011/05/30

神経疾患とiPS細胞

ここ2年くらいの間に様々な神経疾患を呈している患者からiPS細胞を作製し、そこから神経細胞を分化させて正常のそれと比較するという研究が盛んに行われてきたのでメモ。尚、ここでは患者由来神経細胞で異常を見いだした報告のみに焦点を絞る。(他にただ神経細胞を作っただけ、というのがあるが、ここでは取り上げない)

まず最初に神経疾患患者由来細胞で異常を発見したのがこの報告。

Nature. 2009 Jan 15;457(7227):277-80. Epub 2008 Dec 21.
Induced pluripotent stem cells from a spinal muscular atrophy patient.
Ebert AD et al., and Svendsen CN.

脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy; SMA)患者はSMN1遺伝子に変異があり、生後6ヶ月で運動神経が死に始め、2歳までに死んでしまう。このSMA患者由来細胞から運動神経を分化させたところ、健常人由来細胞より生存率が低く、細胞体が小さかった。ちょっと面白いのは分化後4週目では差がなかったのに6週目で差が出たこと。また原因遺伝子の発現量を上げることが知られているdrugに曝すと異常の一部が改善された。この研究では患者と健常人それぞれ1人づつからiPSを作製し比較検討している。

別の疾患でも同じようなことができましたよ、という報告がこれ。
Nature. 2009 Sep 17;461(7262):402-6. Epub 2009 Aug 19.
Modelling pathogenesis and treatment of familial dysautonomia using patient-specific iPSCs.
Lee G et al., and Studer L.

家族性自律神経失調症(familial dysautonomia; FD)患者の多くはIKBKAP遺伝子に変異があり、感覚神経や自律神経が死んでしまう、末しょう神経系の疾患である。このFD患者由来細胞から神経堤細胞を分化させたところ、神経細胞産生や細胞移動に異常があった。原因遺伝子であるIKBKAPに作用することが知られているdrugに曝すと異常の一部が改善された。この研究では患者3人と健常人1人からiPSを作製し比較検討している。

上記2つの研究では患者および比較のための健常人の人数が1-3人と比較的少数であるため、患者由来細胞で観察された異常が本当に患者特異的なものなのか不明確であった。さらに例えその異常が患者特異的であったとしても、その異常が本当に原因遺伝子とされている遺伝子異常によるものなのかは不明であった。これらに対しても明確な答えを出しつつ、他の疾患でも調べましたという報告がこれ。

Cell. 2010 Nov 12;143(4):527-39.
A model for neural development and treatment of Rett syndrome using human induced pluripotent stem cells.
Marchetto MC et al., and Muotri AR.

Rett symdrome (RTT)患者はMeCP2遺伝子に異常がある。生後6-18ヶ月までは正常だが、その後運動失調や低血圧、てんかんや自閉症的行動などを示す。このRTT患者から神経細胞を分化させたところ、それらを生ずる際の幹細胞における細胞周期や分化後の生存率は正常であった一方で、シナプス数の減少やスパイン密度の減少、細胞体サイズの減少があり、さらにカルシウムイオンのシグナルパターンや電気生理学的な特徴に異常があった。重要なこととして、これらのうちシナプス数の減少に関してはMeCP2の過剰発現によりresqueされた。また患者由来細胞で観察されたシナプス数の減少やスパイン密度の減少、細胞体サイズの減少やカルシウムイオンシグナルの異常は、健常人由来細胞におけるMeCP2のノックダウンにより再現された。さらにこの研究では患者4人と健常人5人からiPSを作製し比較検討している(ただし全ての実験においてこの数が調べられているわけではなさそう)。
いづれにしてもこの研究により神経疾患患者由来細胞の異常と特定の遺伝子機能が初めて因果関係で繋がった。今後原因遺伝子が特定されている疾患由来の細胞を用いた研究では、このような「疾患由来細胞でのGOF」「健常人由来細胞でのLOF」が要求されるようになっていくと思われる。

ここまでの神経疾患は全て、単一の原因遺伝子が提案されており、また症状が新生児など比較的早い時期に現れるものであった。これは主にそういった早期に症状の出る疾患の方が細胞レベルで異常が検出しやすいだろうし、GOFやLOFにより遺伝子レベルの因果関係を調べやすいだろうという見込みがあったからである。しかし今年になって、それらどちらにも当てはまらない神経疾患に挑戦した報告がされた。泣く子もだまる、Fred H. Gageラボからの報告である。

Nature. 2011 May 12;473(7346):221-5. Epub 2011 Apr 13.
Modelling schizophrenia using human induced pluripotent stem cells.
Brennand KJ et al., and Gage FH.

統合失調症(Schizophrenia; SZ)患者の多くは青年期に発症し、幻覚や幻聴、社交性の低下、やる気の低下、認知機能障害など複雑多様な症状を示す。原因遺伝子はあまりはっきり分かっておらず、遺伝子異常と環境によるストレスなど複合的な要素により発症に至ると考えてられている。このSZ患者から神経細胞を分化させたところ(Glu, GABA, TH陽性の混合)、狂犬病ウイルスを用いたトレース法により、神経回路の結合様式に異常があることが分かった。しかしカルシウムイメージングや電気生理では異常が検出されなかったため、機能的には正常であると考えられた。また狂犬病ウイルスを用いて明らかになった結合異常はSZ患者に有効であることが知られている既知の精神薬の一部で改善された。この研究では患者4人と健常人3人からiPSを作製し比較検討している(ただし全ての実験においてこの数が調べられているわけではなさそう)。原因遺伝子が不明であるためRTT患者の時のようなGOFやLOFはされていないが、青年期という比較的遅い時期に発症する疾患についても培養下で異常を検出できたということでちょっと驚いた。現時点で回路の機能的な差が見いだされていないのが残念であるが、条件を色々ふることでそれも見えるようになると期待される。

ということで、神経疾患を呈している患者からiPS細胞を作製し、そこから神経細胞を分化させて正常のそれと比較するという研究を概観した。現状としてはようやく上記4つの疾患モデルができ、またそのうちRettにおいては細胞レベルの異常に対する遺伝子レベルでの因果関係が見い出された、というところである。これら培養モデルが注目されている最大の理由は新規治療薬の検討が容易になるのではないかという見込みがあるからなので、今後はこれまでと同様に「他の疾患でもモデルができましたよ」という報告が続く一方で、「それらモデル系でこれまで知られていなかった新規治療薬が見つかりました」という報告が徐々に現れると想像される。

2011/04/19

超新星 oRG細胞

ここ1年くらいの間にバタバタっと発生期大脳皮質での新しいタイプの神経幹細胞についての報告が相次いだのでメモ。

まずはヒト胎児大脳皮質の、霊長類特異的といわれるourter SVZ (OSVZ)という領域で、radial glial cellっぽい新しいタイプの神経幹細胞(oRG細胞)が見つかったという報告。

Nature. 2010 Mar 25;464(7288):554-561.
Neurogenic radial glia in the outer subventricular zone of human neocortex
Hansen DV et al. and Kriegstein AR

oRG細胞はapical endfoodが無く、髄膜方向へtranslocationしながら分裂すると言う点でRGと決定的に異なる。またbasal processがあることと非対称分裂をして自身を複製すると言う点でintermediate neuronal progenitors (INPs)と異なる。oRGはまた、INPsを産む。oRGは全増殖細胞の40-75%を占めるのではないかと見積もられている。(ちなみに、ここで生まれたINPsは神経細胞を産むと想定されるが、証拠はない。またoRGが直接神経細胞を生む可能性も残っている)

この発見でoRGは霊長類特異的な神経幹細胞であり、霊長類特異的な脳機能を支える発生基盤ではないかと大いに盛り上がった。しかし数ヶ月後に、同じような細胞が非霊長類のフェレットで見つかった。

Nat Neurosci. 2010 Jun;13(6):690-9. Epub 2010 May 2.
OSVZ progenitors of human and ferret neocortex are epithelial-like and expand by integrin signaling.
Fietz SA et al. and Huttner WB

この論文は定量的なデータがしっかりしていて信用できる。そして本当にフェレットにも似た細胞がある事が分かる。この発見によりoRGは霊長類特異的ではないことが明らかになった。しかしフェレットの大脳皮質には立派なしわがあるので、少なくともしわのある大脳皮質特異的な神経幹細胞なのではないかと推測されたが、半年後、なんとしわのないマウスでも似たような細胞が見つかった。

J Neurosci. 2011 Mar 9;31(10):3683-95.
Oblique Radial Glial Divisions in the Developing Mouse Neocortex Induce Self-Renewing Progenitors outside the Germinal Zone That Resemble Primate Outer Subventricular Zone Progenitors.
Shitamukai A et al. and Matsuzaki F

理研CDBの松崎研の仕事。しわのある大脳皮質にしかないと思われていたoRGに似た、VZの外でbasal processをもって自己複製的に非対称分裂する細胞(outer VZ progenitors)をマウスで見つけた、という報告。(ただ非対称分裂後の細胞の特徴付けについては細胞の形態や長時間タイムラプス観察の間に分裂するかしないかしか見ていないため、本当に自己複製的なのか、本当にニューロンが産まれているのか明確でない)
さらにこの報告ではNotchシグナルやLGNのapical progenitor (RG)に対する効果を見ていて大変興味深い。特にLGNの機能を落とした時にouter VZ progenitorsが増えるというのは面白い。

この報告の直後、別のラボからもマウスでoRGっぽい細胞が見つかったという報告があった。

Nat Neurosci. 2011 Apr 10.
A new subtype of progenitor cell in the mouse embryonic neocortex.
Wang X et al. and Kriegstein AR

松崎研と同様、oRG様細胞が自己複製し神経細胞を生み出すという主張。この研究では形態の他に娘細胞で遺伝子発現も調べているので、この主張にはより説得力がある。ただしoRG様細胞が全神経幹細胞に占める割合は7%程度。面白いことに、このマウスoRG様細胞からは、ヒトのoRG細胞と異なり、自己複製的非対称分裂で基本的に直接神経細胞のみが産まれ、INPsが産まれないようだ。(この他に著者らはこのoRG様細胞がRGから産まれていると結論づけているが、明らかにデータ不足でこれは信用できない)

これらの知見から、ヒトではマウスに比べ
1) 全神経幹細胞に占めるoRG細胞の割合が高い
2) oRG細胞のINPs産生能力が高い
と考えられ、このoRG細胞に関わる量的質的な差が、最終的な神経細胞の数や皮質の大きさの差の発生基盤となっている可能性があるのではないか、と思った。

これまで皮質進化の観点からINPsが注目されていたが、これら一連の研究によりfocusは一気にoRGにシフトしたように思われる。今後このoRG細胞での研究が一気に進むだろう。要注目。

2011/04/11

ヒト胎児大脳新皮質で領域差や左右半球差のある遺伝子発現

ヒトの胎児の大脳新皮質で、領域特異的に、恐らく興奮性投射神経細胞に発現している遺伝子をいくつか見つけましたよ、という報告。

PLoS One. 2011 Mar 18;6(3):e17753.
Genes expressed in specific areas of the human fetal cerebral cortex display distinct patterns of evolution.
Lambert N et al. and Vanderhaeghen P

さらにalternatively spliced isoform specificに、領域特異的に発現する遺伝子を沢山見つけましたよ、という報告。

Neuron. 2009 May 28;62(4):494-509.
Functional and evolutionary insights into human brain development through global transcriptome analysis.
Johnson MB et al. and Sestan N

面白いのは、両方とも左右の半球で異なる発現を示す遺伝子も同時に探したのに、たったのひとつも見つからなかった、ということ。でも下の報告ではin situまでして確かめられたLmo4をはじめ、少なくともqPCRでは他に27個が左右差のある発現をしている。

Science. 2005 Jun 17;308(5729):1794-8. Epub 2005 May 12.
Early asymmetry of gene transcription in embryonic human left and right cerebral cortex.
Sun T et al. and Walsh CA

左右差のある遺伝子がなぜ前者2報で見つけられなくて後者で見つかったのか。調べた胎齢の差が原因ではないか、と前者2報では議論されている。前者2報は17-23週齢の胎児で調べており、後者は12-14週齢で調べて差を検出している。しかもその12-14週齢で左右差のあったLmo4でさえ、19週齢ではその差が消失している。左右差を生み出すのに必要な遺伝子プログラムは17-19週齢前には大方その働きを完了しているのかも。

最後に、ヒトではPFC特異的なのにげっ歯類ではそういう特異性はない、CNTNAP2という遺伝子があることを見つけた報告。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Nov 6;104(45):17849-54.
Genome-wide analyses of human perisylvian cerebral cortical patterning.
Abrahams BS et al. and Geschwind DH

これは進化的にちょっと興味深い。

以上、貴重なヒト胎児大脳新皮質での遺伝子発現の知見でした。

2011/04/09

起源を知る事の意義のひとつ

目の前で起こっている生命現象Aの系統発生学的また個体発生学的起源を理解する事は、直接的にはAの理解にはそれほど貢献しないが、Aの再現には大きく貢献できる可能性がある。

特にAがヒトでのみ検出可能な場合、実験的にAを理解する事は度々技術的倫理的な困難を伴うが、Aを再現できればそこでいくらでも実験が出来るから結局間接的にAの理解に大きく貢献できることになる。

つまりAの系統発生学的また個体発生学的起源に関する知見は、Aの再現に貢献する事でAの理解に対する貢献を最大化出来るかもしれない。

2011/04/02

胎児の超音波検査と統合失調症

超音波検査が統合失調症の発症リスクをあげているのでは!?と想像したのでそのことをメモ書き。

まず、通常臨床で使われている程度の強度の超音波を30分以上当てるとがマウス胎児の脳での細胞移動を障害するという報告。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Aug 22;103(34):12903-10. Epub 2006 Aug 10.
Ang et al.

元々頻繁な超音波検査で出生児の体重が落ちるとか左利きが増えるとか言語発達が遅れるという報告があったらしい。今回は細胞移動。異常は小さいけど有意な変化。

で、細胞移動の障害を伴う変異で統合失調症様の行動障害が起こるという報告がこれら。

Nat Cell Biol. 2005 Dec;7(12):1167-78. Epub 2005 Nov 20.
Kamiya et al.

Neuron. 2010 Feb 25;65(4):480-9.
Niwa et al.

Disc1という遺伝子を発生期マウス大脳新皮質でノックダウンすると細胞移動がちょっと遅れて、最終的に成体で行動がおかしくなる。面白いのは異常行動が出るのがマウスの思春期頃で、ヒトで統合失調症の発症頻度が上がる頃と同じ。

ただDisc1は細胞移動障害を引き起こすだけでなく樹上突起のarborizationの程度とかにも影響を与えるので成体での行動異常の原因が細胞移動の遅れにあるのかは不明。実験は全てマウスなのでヒトでは違うというのは当然ありうるけど、ヒトでの発生の方が長期にわたるし、細胞移動の距離も長いので単純に考えるとヒトでの影響の方が大きい気がする。

ということで必要以上に超音波検査頻繁にやることは避けた方がいいのでは、、と思いました。まあそもそもそんなに頻繁に検査することはないんだろうけど、自分も含めて最近3D写真撮って喜んでる人多いし、事情はそれほど単純でもないかも、ということを頭の片隅においておいた方がいいのかな、と思いました。

2011/03/28

Huttner祭り

ちょっと古いけど前から気になっていたMax PlanckのHuttner labの論文を読んだ。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Mar 2;101(9):3196-201. Epub 2004 Feb 12.
Neurons arise in the basal neuroepithelium of the early mammalian telencephalon: a major site of neurogenesis.
Haubensak W et al.

Tis21-GFPノックインマウスを最初に報告している論文。これまで年間平均25回くらい引用されておりかなり人気が高い。ただ僕の結論としては、
1)定量性が低すぎる
2)娘細胞のcharacterizationが甘すぎる
ため、分裂しているTis21-GFP細胞の娘細胞がどんな細胞になるのかはこのデータからは結論付け難い。残念ながらこのマウスで「GFP陽性細胞の分裂ではneuronが生まれる」とか「GFP陰性細胞の分裂では2つのneuroepithelial cellが生まれる」とか言われてもとても信じられない。関係のありそうな方は、生データをご覧頂くことをお勧めします。

続いて同じHuttner labからの仕事。

EMBO J. 2004 Jun 2;23(11):2314-24. Epub 2004 May 13.
Asymmetric distribution of the apical plasma membrane during neurogenic divisions of mammalian neuroepithelial cells.
Kosodo Y et al.

素晴らしい観察眼に基づいた論文。「分裂面が脳室面に対しverticalかそうでないか」よりも「apical membraneのsplitがequalかそうでないか」の方が、「neuroepithelial cell→2つのneuroepithelial cellかそうでないか」を判定するいい基準になるのではないかという斬新なアイデアを提唱している。ただしその重要な根拠に先のTis21-GFPマウスを使っているので個人的には慎重にならざるを得ない。ただ、「Tis21-GFP陽性細胞はapical membraneをunequalにsplitする傾向があり、陰性細胞はequalの傾向がある」ことは確からしい。

さらに続いて同じHuttner labからの仕事。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Jul 5;103(27):10438-43. Epub 2006 Jun 23.
Aspm specifically maintains symmetric proliferative divisions of neuroepithelial cells.
Fish JL et al.

正直、こんな酷い論文は久しぶり。AspmのRNAiをしているけど、control RNAiしていないし、もちろんresqueもしてないし、そもそもAspmが落ちているか定量的に調べていない。

そしてこの論文の怪しい結果に基づいて遺伝子改変マウスまで作ってしまった論文がこの論文。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 21;107(38):16595-600. Epub 2010 Sep 7.
Mutations in mouse Aspm (abnormal spindle-like microcephaly associated) cause not only microcephaly but also major defects in the germline.
Pulvers JN et al.

そして結果、Aspmのmutationをいれてもneurogenesisには影響がなかったという。。。これは正直サムイですよ。誰か途中で止めたれよー。。。。
ただ、この研究ではマウスAspmの代わりに構造の異なる(霊長類で正の選択を受けてきたと思われている)ヒト型Aspmを導入していて、おそらくヒトの脳のようになることを狙ったと思われるが、結果、脳の大きさはマウスAspmを発現させた場合と変わらなかった。。。。ということでwで残念。。。しかしこの研究の背景にあると想像される、「ヒトの疾患をマウスで再現したい、あわよくばマウスの脳をヒトのようにしわしわにしたい!」という熱い想いには共感できる。

ということで僕の結論としては、「Aspmはマウスのneurogenesisには影響していない可能性が高い」ということです。上のPulvaers et al., 2010では脳の大きさ自体は確かに15%くらい小さくなっていますが、Fig.1Eをみるとmutantでは全体的に細胞密度が上がっているように見えるのでその影響が大きいのでは、と思います。もっとも、著者らが言っている通り、neurogenesis以前のneuroepithelial cellの分裂に影響している可能性はあるけど、例えあったとしても結局脳の大きさが15%減少する程度なので影響は小さいと思う。

以上、Huttner labの仕事、4連発でした。

2011/03/27

ヒト大脳皮質の拡張可能性

系統発生的に、哺乳類大脳皮質はxy方向に拡張してきた一方、z方向への拡張はほとんどない。従って大脳皮質はどちらかというとxy方向への拡張、すなわちradial columnを増やす方向への拡張には一定の可塑性を保持している可能性が高い。ただしクロマニョン人の方が現代人よりも脳容量が大きかったという話もあり、これが正しいとすると現在のヒトの大脳皮質はxy方向に拡張可能な上限に達しているという可能性もある。

2011/03/04

サイエンスの議論

今日は自分のプログレスレポートだった。進化の話なので厳密な結論は出ないのだが、そんな内容でもラボのみんなから色々な意見をもらえて良かった。特にレポート終了後に2時間近くにわたって大局的な議論をK先生らと話し込めたことは面白かった。普段は目の前の実験や雑務に追われていることが多くて、広い視点で現状をとらえ直すことができない傾向にあるけど、やっぱりサイエンスの面白さの一つは想像を膨らませて夢や未来を議論し合うことにあると思う。特に若いうちはまだまだ未熟で当然なのだから、自分棚上げでガンガン言い合うのが面白いw

2011/02/28

ポスドクの醍醐味

最近、ラボの同僚がスウェーデンから帰国した。ジョブトークに出かけていて、ついでに将来住むことになる可能性のある街での生活を体感してきたという。物価が高い一方、人々はとても優しかったらしい。
ポスドクの良さの一つは、その自由度の高さにあると思う。 住む場所も、特定の国や地域に縛られない。ラボの中でも比較的雑用が少ないため、研究に集中しやすい。その分、スタッフよりは給料は低く経済的に不安定なので、「お金で自由を買っている存在」ともいえるかもしれない。なんともお気楽な生活で、理解を示してくれているとはいえ家族には時々ちょっと申し訳ない気持ちにもなる。将来は少し楽をさせてあげたいな、とも思う。でももうしばらく自由にしておいてください、とも思う。 今の「自由」は、きっと様々な出来事により簡単にやめなくてはならなくなると分かっている分、今はそれを満喫したいと思っている。
この時代、この国に生まれて、本当に恵まれていると思う。日本でも戦時中、ほんの数十年前にはこんな自由はありえなかった。この時代であっても、家庭の事情で博士課程に進めないことも十分あり得る。事実、僕も修士課程にいて進路を検討していた頃、親から博士課程へ進む費用は出せそうにないと言われていたが、運良く学術振興会特別研究員になれたから、勉強が続けられて博士号が取れた。だから家族はもちろん、そういった制度をサポートしてくれている周りの方々にも感謝したい。ポスドクという立場になれて本当にありがたいと、そう思う。
逆に自分が世の中に対してできることは、まずは有意義な研究成果を世の中に発表すること。これは自分なりにこれまでもしてきたことだし、税金でサポートしてもらっている研究者として今後も最低限続けなければいけない。今後は自分なりのいわゆるアウトリーチ活動を、色々試していきたいと思っている。
これからもポスドクとして自由を存分に謳歌しつつ、社会的責任もしっかり果たしていきたい。

2011/02/26

休日

今日は休み。子供の好きなアンパンマンの本を読み聞かせる会に行った後、近くで評判の讃岐うどん屋で昼食を済ませてその足で食料品の買い物をして帰宅。普段の休日より大分活動的だったせいか、帰宅後夕飯を作る前に1-2時間ほど家族3人でうたた寝をしてしまった。夕食時にはレンジで魚が焼ける魚焼きパックを初めて使用してみたが、しっかり魚が焼けた。小林製薬、やるねー。明日はぼちぼち学校に行くつもり。

差別化の癖をつける

ブログのタイトルに自分の名前を入れるというのも普通はしない。僕の知っている範囲では神経の研究者ではT大のO先生くらい。でもそこを敢えてそうする。とりあえずここでは他の人があまりやってないから、という理由だけ。差別化の癖を付ける。どれだけ意味があるかは不明だが、とりあえずそういうスタンスをとってみる。ある意味実験。誰にも迷惑かけるわけでもないのでいいだろう、と開き直る。

情報の発信

もうすぐ32歳になる。
これまで自分なりに色々なことを勉強してきた。それは基本的に情報を受信することだった。受信したことをベースに自分でじっくり考える。そいういうスタンスだった。そのスタンスから一定の答えが出て、大雑把な方向性が見えてきた。これ以上同じことを繰り返していてもイノベーションは期待できない。そこでこれからはスタンスを逆にして、情報を発信してみようと思う。情報というと大げさだけど、つまりは思ったことを発信するということ。そうすることでこれまでとは少し自分と世界を違う角度から見ることが出来るようになるかもしれないし、基本的な考え方に広がりが出るかもしれない。
こういう意味付けをしている時点で情報の発信に慣れてないことがバレバレだけど、やれることを無理のない範囲でやっていってみようと思う。

2011/02/25

ブログ開設w

ブログを始めてみましたw
日々の生活で気になったことを、思いのままに綴っていこうと思います。